「子どもが落ち着かないから手に負えない…」
「忘れっぽい子どもにはどうしたらいい?」
ADHDの特徴をもつお子さんと関わるのは、とても大変ですよね。
学習障害や自閉症スペクトラム症などのほかの発達障害を含めても、ADHDのお子さんは関わり方がとてもむずかしいと思います。
(かつて僕も英語のレッスンをADHDのお子さんにマンツーマンで教えていましたが、最初はレッスンが崩壊するほど走り回っていて大変でした…)
もちろん、さまざまなものに興味関心をもったり、元気で活発なところは”子どもらしさ”があり、ADHDのお子さんのいいところでもあります。
ですが、本来走ったり、騒いだりしてはいけないところで、その場に応じた調整ができないと、その子が大人になったときに大変ですし、まわりの方々にも迷惑をかけてしまいます。
だからといって、押し付けるように注意しても、聞く耳をもちません。
それに、一度の注意で改善するほど、簡単でもありませんよね。
(これは子ども全般に言えることですが…)
また、ADHDといっても、見られる特徴や症状は、お子さんによってちがいます。
そのため、その特徴を見極めた上で、しっかりと関わっていくことが大切です。
そこで、今回はお母さんお父さんや小学校の先生など指導者の方にむけて、ADHDのお子さんとの関わり方について、なるべく具体的に解説していきます。
【どんな特徴があるか見極める!】
ADHDのお子さんとの関わり方のポイント
ADHDには、主な特徴・症状は「多動症」「不注意」「衝動性」の3つです。
もちろん、これら3つに関連する特徴がすべて見られるわけではないですが、ずっと動き回ったり、何度注意しても態度が治らなかったり、突然衝動的な行動を起こしたりなどの症状がみられることが多いです。
また、これに加えて、忘れっぽかったり、計画を立てることができなかったりすることも…。
そのため、以下ではお母さんお父さんや小学校の先生などがなるべくすぐに実践できるように、具体的なケースでの関わり方や対処法を解説していきます。
そこで今回はADHDのお子さんに見られやすい7つの症状別に、実践しやすいよう具体的な関わり方や対処報を解説していきます。
①【じっとしていられない…】
動ける時間や役割をつくってあげる
子どもがじっとしていることができないという場合であれば、まずは動ける時間や役割をつくってあげることが大切です。
お家で走り回っているようであれば、なにか子どもが楽しめる家のお手伝いをしてもらいましょう。
また、危険が及ばない範囲で、いっしょに料理をしてみたり、お菓子をつくってあげたりすることもおすすめです。
もし、学校の先生であれば、プリントを配布してもらったりするのもいいと思います。
また、ADHDのお子さんがじっとしていられないのには、さまざまな要因が考えられていますが、根本的な問題は「脳の発達の遅れ」です。
脳のなかでも、特に前の方にある「前頭前野(ぜんとうぜんや※)」の発達が遅れていると考えられます。
※前頭前野は自分の感情や欲求をコントロール(自制)する働きがあります。
この前頭前野に関しては8歳までが特に発達しやすいので、その年齢に達していないお子さんは前頭前野のトレーニングを数ヶ月~半年以上おこなうことで、そのような症状を改善することもできます。
また、じっとしていられないのは、脳内ホルモンの「ドーパミン」と「ノルアドレナリン」の機能低下と結びついています。
そのため、根本的な解決策とは言えませんが、電車やバスで移動するときに走り回ったりしないで、じっとしていられるようにしたいのであれば「コンサータ」など服用する薬物療法を用いるのひとつの方法です。
ですが、薬物療法はあくまでも一時的にADHDにみられる特徴的な症状をおさえるだけで、永遠に効果が持続することはありませんし、根本的にADHDを改善するものでもありません。
また、発達障害に使用される薬物は、多くの場合、大麻や覚醒剤と似たものなので、安易な服用や長期間の服用は気をつける必要があります。
ちなみに、薬物療法に関しては、数十年の歴史があるとされていますが、専門家の間での議論は多く、結論に至っていません。
ですが、特別なときや緊急のときに使用するのはしかたありませんが、基本的に薬物療法に頼ることはおすすめしません。
②【集中力がぜんぜん続かない】
何が原因なのかを見極める必要がある
「集中力がぜんぜん続かない…」
というのADHDのお子さんに見られやすい特徴のひとつといえます。
(これはADHD関係なく、他のお子さんにも見られますが…)
この場合、原因は以下の3つのいずれかに当てはまることが多いです。
◯内容がつまらない
◯脳の発達・伝達物質の機能低下
◯感覚過敏
子どもの集中力が続いていないなと思うときは、まず「やっている内容がつまらない」という原因が考えられます。
大人のやらせたいことと子どものやりたいことがズレると、特に集中力は続きません。
(とはいえ、小学校の先生などは授業内容がある程度決められているので、むずかしいですが…)
そのため、まずは内容を見直してみることが大切です。
塗り絵がだめなら、ブロックをやってみたり、室内遊びがダメなら外でボール遊びをしたり…
小学校入学前であれば、とにかくいろいろなことをやらせてあげることが大切です。
(親御さんが忙しければ、シッターさんや近所の信頼できる人、祖父祖母や親戚にも頼んでみましょう。)
また、やる内容に関係ない場合は、先ほどお伝えした脳の「前頭前野」が未発達であったり、集中するときに必要な脳内の伝達物質である「ドーパミン」などの機能低下が考えられます。
その場合は、前頭前野のトレーニングなどを毎日10分程度やったり、必要に応じて薬物療法を取り入れる必要があります。
そして、もうひとつ原因として考えられるのが「感覚過敏」です。
これは名前の通り、ある特定の感覚が過敏であるということです。
たとえば、「聴覚過敏」であれば、ちょっとした音が気になって、集中が切れてしまいやすかったりします。
そういった場合、物音が極力ない部屋を用意したり、そのお子さんが聞いていて心地がいいBGMなどを流したりなどの工夫が必要です。
そのため、集中が続かない場合は、なにが原因であるかを模索しながら対応する必要があります。
③【途中で中断できない】
時間を話し合って決めてること
ADHDのお子さんは、一度なにかに集中すると、とことん夢中になります。
たとえば、それが塗り絵やブロックなど発達に問題がない場合であれば、時間が許すかぎり没頭させてOKです。
ですが、Youtubeの動画コンテンツやアプリなどだと、ADHDの症状を悪化させるケースがあるので、極力使わせないようにしましょう。
また、なにかをするときには、あらかじめ時間を決めてあげることが大切です。
そのときに、時計を使うのであれば、アナログ時計を使って、子どもが視覚で理解しやすくしてあげることも大切です。
加えて、過集中の状態だと、遠目から声をかけたり、普通の声のトーンだと、お子さんの反応がうすかったり、聞いていないように見えることもあります。
ですので、時間を決めて、終わりの時間がきたら、近くまでよって、ゆっくりと時間が来たことを伝えましょう。
また、最初に時間を決めたのにもかかわらず、わがままをいってやめないようであれば、そこはルールをしっかりと守ることを教えるためにも、一旦子どもと向かい、叱ることも大切です。
④【忘れ物やモノをなくすことが多い】
一緒に確認しげあげることが大切
忘れ物が多い場合は、最初のうちはお母さん、またはお父さんがいっしょに確認してあげることが大切です。
また、そのときに、お母さんお父さんに意識していただきたいのが、
“忘れ物をしないように、どうやって確認すればいいか”
ということです。
具体的には、時間割や持ち物表などがあれば、それをいっしょに子どもとみって、チェックしながら、バックに入れるなど、子どもが次にひとりでやるときに具体的にどうやって準備すればいいのかわかるようにしあげることが大切です。
また、可能であれば、それを絵にして壁に貼りつけるなど、視覚的に理解しやすいように示してあげることも大切になります。
というのも、ADHDのお子さんは、先ほどもお伝えしたように、脳の「前頭前野」の発達が未発達であることが多いです。
前頭前野は、自分の感情をコントロールするだけでなく、計画を立てたり、順序立てたりする役割を担う領野でもあります。
ですが、ここが未発達だと、「どういった手順で」「どんな方法で」忘れ物をしないように準備すればいいか子どもだけではわからないことが多いです。
そのためにも、最初はお母さんやお父さんがいっしょにやってあげること大切です。
また、なくすものが多いときは、しまう場所などを作ってあげて、とにかく使ったらそこに戻すことを徹底させることが大切です。
ただ、すぐにできるようにならないので、根気強く、ちょっとずつできるようにさせていきましょう。
⑤【言われたことをすぐ忘れてしまう】
指示はひとつひとつ、わかりやすく。
ADHDのお子さんは、脳の前頭前野の発達が未熟であるケースが多いことはお伝えしてきました。
そして、実はこの前頭前野の大きな役割のひとつに「ワーキングメモリ」という機能があります。
これは、複数の情報を一時的に保持する能力です。
このワーキングメモリは物を考えたり、予定を立てたりするときには欠かせない機能のひとつです。
ですが、ADHDのお子さんは、前頭前野が通常のお子さんより発達していないことが多いため、ワーキングメモリの機能も弱いケースが多いです。
そうなると、言われたことや指示されたことを短時間で忘れてしまうことが多くなります。
ただ、実は子どもも「どうして忘れてしまうんだろう」と苦しんでいます。
ですので、ワーキングメモリを鍛えるトレーニングを取り入れることは大切ですが、基本的に子どもに何かを伝えるときには、「ひとつずつ」「ゆっくり」を意識してあげてください。
「顔を洗って、歯を磨いて、着替えて!」
朝は忙しいので、このように一気に指示してしまいがちです。
ですが、ADHDのお子さんはこのように連続して言われると、忘れてしまったり、何をすればいいか逆にわからなくなったりします。
ですので、何かをつたえるときには「ひとつずつ」「ゆっくり」を大切にしてあげてください。
また、なにかを伝える前に、
「今から大事なことを言うね」
「今から言うことをよく聞いてね」
をお子さんの注意をこちらに向ける一言をクッションとして入れてあげるとスムーズにいくこともあるので、試してみてくださいね!
⑥【友達とケンカしたり、ぶったりする…】
理由を聞いて、どうやって対処するかを教える
ADHDのお子さんは、脳の前頭前野の発達が遅れていることで、自分の感情や欲求をコントロールすることができないことが多いです。
そうすると、お友達が使ってるおもちゃを取り上げてしまったり、順番を待たなかったりする光景がみられます。
そうなると、お友達とのケンカも起きますし、カッとなってお友達のことを打ってしまうことも…。
そうなったときは、まず「ぶったこと」に対して、それはいけないことであると叱りましょう。
そして、必ずその後に、そうなった「理由」を聞いてあげましょう。
(パニックになっていたり、泣いているときはとりあえずそっとしておいて、落ち着いてから話を聞きましょう)
内容を聞いたら、そのようなときに、どのような行動や対処をしたらいいのかを具体的に教えてあげましょう。
そのお子さんが成長して社会のなかで生きていくためには、「ルール(法律)を守る」ことはもちろん、人との関わり方やコミュニケーション能力も必要です。
子どものうちに、そのようなことをトレーニングしたり、経験したりする機会を与えないと、大人になったときに苦労するのはお子さん自身です。
そのため、保育園や幼稚園、小学校のなかでまったくちがう環境で育った他の子どもと触れ合う経験は大切にしてあげましょう。
(もちろん、いじめや嫌がらせなどが起きていないかは先生と連携してチェックし、ようすをこまめに聞くことも大切です。)
⑦【努力を続けることがむずかしい…】
前向きに取り組めることから始める
ADHDのお子さんは集中力が続かなかったり、自制する力が弱いため、努力をすることができない場合が多いです。
また、やってみてうまくいかないと、すぐにやめてしまったり、楽しくないと続かなかったりして、あまり一つのことを続けることを得意としません。
そのような状態を見ていると、お母さんやお父さんは
「なにかに一生懸命打ち込んでほしい、そんな姿を見たい!」
と思うかもしれませんが、それを最初から求めると子どもには負担になります。
また、「まだ努力ができるものが見つかっていない」ということも考えられます。
ですので、 じょうずにきっかけをつくって、まずは、それに熱中してもらうことが大切だと思います。
その上で、何かに打ち込んだり、一定期間努力をして小さなか成功体験を積ませたりすることが大切になってきます。
【脳のトレーニングが大切!】
ポイントは脳の司令塔”前頭前野”
先ほどから、何度もお伝えしてきた、脳の司令塔である「前頭前野」。
実はADHDに見られやすい症状は、「前頭前野の未発達」で説明できるものが多いです。
たとえば、
✓ じっとしていられない
✓ 自分の感情をコントロールできない
✓ 計画を立てたり、順序立てたりできない
✓ 忘れっぽい
✓ 言われたことを忘れてしまいがち…
などなど…
これらの機能は、前頭前野が未発達のために起こるものといえます。
他にも複数の物事を一時的に保持する”ワーキングメモリ”を担ったり、意思決定をしたり、コミュニケーションにも大きな役割を果たします。
また、この前頭前野の役割から、ADHDだけでなく自閉症などの発達障害も総合的に理解できます。
そのため、発達障害の症状を改善する上でも、この「前頭前野」のトレーニングは重要になってきます。
もちろん、発達障害のすべての原因が前頭前野にあるとは言えません。
ほかの脳の領野(海馬や扁桃体など)に原因がある可能性もありますし、脳内のホルモンに原因がある可能性もあります。
(ただ、脳内ホルモンの分泌にも前頭前野は関わっています。)
ですが、前頭前野の発達をしっかりトレーニングすることで、落ち着きがなく走り回ったり、忘れ物を多くしてしまったり、他者とのコミュニケーションがじょうずに取れないなどの症状を改善することができます。
また、前頭前野の発達は一生を通しておこなわれるとされていますが、4~6歳をピークに8歳までが最も発達しやすい時期とされています。
この時期を過ぎてしまうと、トレーニングをしても発達障害の症状を改善しにくくなるのも事実です。
ですので、発達障害である場合は、早めにトレーニングを始め、改善していくことが必要になります。
【一時的に抑えるなら薬物療法】
薬物療法はあくまでも一時的な治療
発達障害の治療法のひとつとして「薬物治療」がありますよね。
実は、これにも実は長い歴史や背景があります。
ADHDは、脳内の伝達物質である「ドーパミン」と「ノルアドレナリン」の機能低下と結びついています。
そして、これらの脳内伝達物質を強めるために、アメリカでは薬物療法が用いられます。
日本でも、「コンサータ」などの薬物が処方されます。
ただ、薬物療法はあくまでも一時的にADHDにみられる特徴的な症状をおさえるだけで、永遠に効果が持続することはありませんし、根本的にADHDを改善するものでもありません。
(つまり、薬の効果が切れてしまえば、ADHDの症状は見られるということです。)
また、発達障害に使用される薬物は、多くの場合、大麻や覚醒剤と似たものなので、安易な服用や長期間の服用は気をつける必要があります。
ちなみに、薬物療法に関しては、数十年の歴史があるとされていますが、専門家の間での議論は多く、結論に至っていません。
ですが、特別なときや緊急のときに使用するのはしかたありませんが、基本的に薬物療法に頼ることはおすすめしません。
さいごに
ここまで、ADHDに見られやすいお子さんへの具体的な関わり方や対処方法に関して解説してきました。
また、薬物療法などについても触れてきました。
ですが、根本的に改善するためには、脳の適切なトレーニングをおこない、発達を促すことも大切です。
ただ、まずは日常生活のなかでできる、ADHDのお子さんとの具体的な関わり方を実践してみることを大切にしましょう。