「食事で発達障害が治る!」
と聞いたら、あなたは信じますか?
近年、さまざまな国内外の研究によって、発達障害の治療法のひとつとして「栄養治療」があります。
発達障害の治療というと、「薬物治療」と「療育」などが主流でしたが、最近注目を浴びているひとつが、今回ご紹介する「栄養療法」です。
発達障害を改善するための特に大事とされている成分、それは
「たんぱく質」と「鉄分」
の2つです。
この2つを日々の食事の中にしっかりと取り入れることで、発達障害が改善しているケースがあります。
また、これに関連する研究などもいくつかあります。
そこで、今回は発達障害を改善するための栄養療法について、わかりやすく解説していきます。
そのため、
「発達障害が食事で治せるのか知りたい!」
「発達障害と診断された子どもにどんな献立を立てればいいかわからない…」
という方は、ぜひチェックしてみてくださいね!
【発達障害の改善のカギとなる栄養は2つ!】
「たんぱく質」と「鉄分」の摂取が大切!
国内外の発達障害と栄養に関する研究から、以下の2つの栄養が発達障害の改善のカギを握っていると考えられています。
■たんぱく質
■鉄分
この2つの成分が、発達障害、ひいては、お子さんの体・健康にどのような影響をもたらすのかについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
たんぱく質の特徴と影響
たんぱく質は、三大栄養素のひとつで、主に人体の細胞の材料として使われるほか、酵素やホルモンの成分でもある、必要不可欠な栄養です。
また、たんぱく質は、鶏肉や豚肉、牛肉などの「肉類」や卵、魚などに多く含まれており、これらの食べ物から摂取する方が多いです。
ちなみに、1日のたんぱく質の推奨量は、厚生労働省の報告によれば以下のようになっています。
ただ、日本人は、アメリカ人などと比べてお肉の摂取量が不足しがちなので、たんぱく質不足に陥りやすいという特徴もあります。
加えて、たんぱく質が不足すると、臓器の機能も低下して、消化吸収能力も悪くなります。
そのため、しっかりとたんぱく質を摂取することが大事になります。
たんぱく質の量は血液検査「BUN(入組窒素)」が大事!
たんぱく質不足は、血液検査の「BUN(入組窒素)」の値が目安となります。
BUNは血液中の尿素に含まれる窒素成分のおとで、高い倍は腎機能障害、基準値未満の場合はたんぱく質不足が疑われます。
また、BUNの一般的な基準値は「8~20mg/dl」ですが、できれば、「15~20mg/dl」が望ましいとされています。
鉄分の特徴と影響
鉄分は、赤血球をつくり、酸素を運んだり、貯蔵したりする重要な働きがあります。
また、鉄分が含まれる食べ物としては、「豚・鶏レバー」や「ひじき」「あさり」「納豆」などがあります。
ただ、特に女性が不足しやすいミネラルとも言われています。
というのも、10代後半~40代の女性は毎月の月経で血液が体内から出ていき、鉄分が失われるからです。
(「閉経」とともにフェリチン値が少しずつ上っていきます。)
また、鉄分不足が重度だと、妊娠・出産が成立せず、たとえ妊娠したとしても流産などになるリスクが高まります。
さらに、妊娠後は、胎児が育つ段階で、母体の鉄分から胎児に移行します。
そのため、母親の鉄分が少ないと、より鉄分不足を招き、その結果、胎児の神経発達障などにもよくない影響を与える危険があります。
さらに、産後に
「たんぱく質不足」×「鉄分不足」×「糖質過多」
の母親の母乳を飲んだり、離乳食後にそのような偏った食事を摂ると、子どもも栄養不足になります。
つまり、母親が「タンパク質・鉄分不足」だと、生まれてくるお子さんも同じように「タンパク質・鉄分不足」になる可能性が高いとも考えられます。
そのため、日々の食事だけでじょうずに鉄分を摂取できない方は鉄分のサプリメントを飲むのもひとつの方法です。
体内の鉄分量を確認するには「フェリチン値」が重要!
鉄分不足は「貧血」を招きます。
その「貧血」の代表的な指標が「ヘモグロビン値」です。
ただ、体内の鉄分量を確認する上で重要になるべき値は「フェリチン値」というものです。
フェリチンとは、“体内に鉄分を蓄えるたんぱく質”のことです。
ヘモグロビン値が基準値内でも、フェリチン値が低いと体内の鉄分量は十分とは言えません。
そのため、ご自身やお子さんの鉄分量を調べてもらう際には保険適用外ですが、「フェリチン値」をしっかりと計測してもらうようにしましょう。
ちなみに、日本での成人のフェリチン値の基準値は、
「男性:21~282ng/ml」
「女性:5~157ng/ml」
とされています。
ただ、男女ともに「100ng/ml」あるのが望ましいです。
また、子どもの場合は、
「男の子:50ng/ml以下」
「女の子:30ml/ng以下」
だと重度の鉄分不足と考えられる、すぐに改善する必要があります。
【国内外のさまざまな研究でも報告!】
発達障害と”鉄分不足”の関係を示す研究データ
発達障害のお子さんは
「たんぱく質不足」×「鉄分不足」×「糖質過多」
であるケースが多く見られます。
また、子どもにこのような栄養の偏りがある場合、お母さんも同じような状態になっていることがあります。
そして、このうち、特に注意したいのが「鉄分不足」です。
ちなみに、厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によると、1950年の国民1人あたりの一日鉄分の平均摂取量は「約46mg」だったのに対し、2017年には「7.5,mg」まで減っていることがわかっています。
(この大幅な鉄分不足と発達障害の児童数の増加の関係は気になります…。)
以下では、その鉄分不足と発達障害の関係していることを指し示す2つの研究を紹介します。
【2004年6月】
パリ病院の研究グループによる調査
2004年6月には、パリ病院の研究グループによって、以下のような報告がなされています。
①ADHD児の血清フェリチンは対照群と比較して低い。
②ADHD児の84%に血清フェリチン値の以上が認められたのに対して、対照群では18%しか認められなかった。
この2つの報告から、鉄分不足と発達障害には関係があると考えられます。
【2014年10月】
米カリフォルニア大学医学部などによる調査
2014年10月に報告された米カリフォルニア大学医学部を中心としたグループの研究によると、子どもが自閉症スペクトラム障害と診断された母親で、妊娠中に鉄のサプリメントを取っていた人は、正常な発達と診断された子どもの母親のわずか6割程度だったという報告がされています。
この報告からも、発達障害と鉄分不足の間に関係があると考えられます。
【たんぱく質・鉄分不足かも?】
たんぱく質・鉄分不足の子どもの特徴
たんぱく質・鉄分不足の子どもかどうかを判断するには、先ほど解説した「フェリチン値」を母子ともに測ってもらうことおすすめします。
また、たんぱく質・鉄分不足のお子さん、また、お母さんに見られやすい特徴としては以下のようなものがあります。
■イライラしやすい
■集中力が続かない・低下する
■神経過敏
→ささいなことが気になる
■立ちくらみ・めまい・耳鳴りがする
■片頭痛がある
■疲れやすい
■関節や筋肉などの痛みがある
■のどの詰まりや違和感がある
■冷え性
■朝なかなか起きられない
■アザができやすい
■肌・髪・爪のトラブルがある
■氷を食べる
■土を食べる
※これらの多くはうつ病やパニック障害、不安障害などの症状に通ずるものがあります。
これらの症状が母子ともに多く見られる場合は、たんぱく質や鉄分が不足している可能性があるので、一度、それぞれの値を測ってもらうことをおすすめします。
【どんな症状が改善するの?】
自制心や集中力、作業記憶などに効果期待
栄養療法は、10歳までの発達障害のお子さんであれば、改善しやすいとされています。
そのため、日々の食事を見直してみて、たんぱく質や鉄分が不足していると考えられる場合は、しっかりと食事を見直すことが大切になります。
また、栄養療法を継続的に実践することで、発達障害のお子さんに見られやすい、以下のような症状を改善することも期待できます。
✓ 集中力の低下
→集中力が続きやすくなる
✓ すぐに疲れる
→体力がついて、運動機能にもプラスの影響
✓ 基礎学力が低い
→IQなどの学力の向上
もちろん、食事だけでなく、日々の関わり方や脳から見たトレーニングなども大切になってきます。
ただ、食事も同じくらい大切です。
そのため、しっかりと日々の食事を見直し、足りていない部分を補っていく必要があります。
【具体的にどんな食べ物がいいの?】
「高たんぱく質・低糖質」の食事を意識!
発達障害のお子さんは、以下のような栄養が不足しているケースが多いです。
①糖質過多
②たんぱく質不足
③脂肪酸不足
④ビタミン不足
⑤ミネラル(鉄分不足)
ただ、これらをすべて完璧に補おうとすると、お母さんが疲れてしまって、結果的にストレスがかかってしまいます。
そのため、まず意識すべきは、
「高たんぱく+低糖質の食事」
です。
また、添加物の多いインスタント食品などはできるだけ避けることも大切です。
これを踏まえた上で日々の食事で意識すべきポイントは以下の5つです。
①高いたんぱく質・低糖質の食事
②鉄分を意識して摂取(サプリメントもあり)
③インスタント食品は避ける
ーーここからは余裕があれば実践ーー
④良質な脂質を摂取
⑤ビタミン・ミネラル・必須脂肪酸
→サプリメントでもOK
では、それぞれのポイントについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
①高いたんぱく質・低糖質の食事
まず、一番大切なのは「高いたんぱく質・低糖質」の食事です。
また、たんぱく質は、肉・魚・卵・チーズといった「動物性タンパク質」を積極的に摂るようにしましょう。
たんぱく質が不足すると、臓器の機能が低下して、消化吸収能力が悪くなります。
そうすると、栄養をいくら摂取しても活用できなくなるため、しっかりとたんぱく質を摂るようにしましょう。
また、推奨量はありますが、ひとつの目安として「体重の1,000分の1」の量のたんぱく質を1日に摂取するようにしましょう。
例)20kgのお子さん→20gのたんぱく質を1日に摂取。
(厳密に測る必要はありません!)
ちなみに、代表的な食べ物に含まれるたんぱく質は以下の通りです。
【肉類】
豚肉100g:19.3g
牛肉100g:17.9g
鶏肉100g:16.2g
【魚類】
サンマ100g:19.2g
アジ100g:17.8g
【その他】
卵2個:12.3g
チーズ100g:22.7g
献立を考えるときは、これらの基準を参考にしてみてくださいね!
また、糖質を控えることも大切です。
ごはんやパン、麺類などはすべて精製糖質(精製された白い砂糖)のため、過剰に摂取すると、ビタミンB群やミネラルを消費してしまいます。
そのため、お菓子やジュース類などの制限やたんぱく質を一品増やし、ごはんやパンなどの糖質を減らすことを意識することも大事です。
②鉄分を意識して摂取
鉄分を補うには、先ほどご紹介した「動物性たんぱく質」を摂ることが大切です。
鉄分には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2つがありますが、動物性タンパク質から摂取できる「ヘム鉄」の方が吸収率がいいので、おすすめです。
また、これに加えて、効率的なのがやはり鉄剤やサプリメントです。
ちなみに、人体には必要な量の鉄分だけを吸収するシステムが備わっているので、口から摂取する分には鉄過剰症の心配はありません。
ただ、体に炎症がある場合は控えるようにしましょう。
また、鉄分の吸収を妨げるビタミンEのサプリメントを併用する場合は8時間以上、間をあけるようにしましょう。
ちなみに、サプリメントに抵抗がある場合は、鉄分を多く含む以下のような食品をしっかりと摂取するようにしましょう。
【食べ物】
●アサリ
●カタクチイワシ(煮干し)
●レバー
●卵
●ビーフジャーキー
●コンビーフ
【飲み物】
●青のり
●ココア
③インスタント食品は避ける
スーパーに売られているインスタント食品や冷凍食品は手軽な分、食品添加物が多数使われています。
これらの食品添加物はミネラルの吸収を阻害したり、体外に排出したりする作用があります。
なかでも「亜鉛」は食品添加物の摂取によって、不足しがちです。
亜鉛が不足すると、爪に白い斑点ができたり、味覚障害や皮膚障害、脱毛などの症状を引き起こし、ひいては子どものは発育にも影響を及ぼすこともあります。
そのため、たまにであればいいですが、頻繁にインスタント食品や冷凍食品を使用することは避けましょう。
④良質な脂質を摂取
脂質は体の成分としてとても重要です。
そのため、余裕がある方は脂質もしっかりと工夫しましょう。
まず、脂質については、以下の食用油を避けるようにしましょう。
■サラダ油などに代表される植物油
■市販のドレッシングに使われている脂
■マーガリンやショートニングなどのトランス脂肪酸
そして、これらの代わりに、バターやラードなどがおすすめです。
また、ココナッツオイルは植物油ではありませんが、飽和脂肪酸が豊富で、酸化しにいのでOKです。
⑤ビタミン・ミネラル・必須脂肪酸の摂取
ビタミン・ミネラル・必須脂肪酸などを十分に摂取することも、発達障害の改善に効果を期待できます。
具体的には以下の栄養素を意識しましょう。
●ビタミンB群
●ビタミンC群
●ビタミンE
●レシチン
●亜鉛
●マグネシウム
●ω(オメガ)-3脂肪酸
【完璧にする必要はなし!】
できる範囲から実践することが大事。
ここまで、発達障害と食事の関係について、詳しく解説してきました。
今回お伝えしたことをすべて実践するのはむずかしいです。
そのため、完璧にする必要はありません。
まずはできることからやってみましょう。
もしひとつだけ強く強調するとしたら、
「動物性タンパク質を増やすこと」
です。
動物性タンパク質をしっかり増やせば、鉄分や亜鉛などのミネラルも摂取することにつながります。
そのため、まずは肉や魚、卵などの「動物性タンパク質」を意識して食事に取り入れてみるようにしましょう。